インターネットが発達していろいろなサービスが増えた。
インターネット黎明期は、個人ホームページなどが主流であったが、スマートフォンの爆発的な普及などにより、人と人をネットで繋げるサービスが始まった。それらはSNS(social networking service)と呼ばれているのはご存知の通り。
基本的にどのSNSもアカウント登録は無料だ。
人と人は”フォロー”と言う関係で繋がり”いいね”で共感を得る。フォロー数フォロワー数、いいね数がネット上でのその人の影響力となった。
ネット上では個人は数値で人気を測る事ができるのだ。
FaceToFaceの関係が少なくなりつつある現代、承認欲求を満たすツールとしてSNSは最高のサービスである。
さて、ここからがこの物語の本題。
もし、これを読んでいる貴方が病気や不慮の事故により亡くなったとしよう。いきなり不謹慎な話で申し訳ないが、もう少しお付き合いいただきたい。
さて、亡くなってもアカウントは明示的に削除しない限りそのサービスが終了するまで半永久的に”残る”のだ。
そこに目をつけた会社があった。会社名は”エターナルライフカンパニー”、代表取締役は遠野幸一郎と言う。
サービス内容は以下の通り
・既に亡くなっている人のアカウントを遺族の要請によって定期更新するサービス
・300年後を見据えた、アカウント対象を”家系”とした写真や遺言、日記などの家系データベースの維持・運用サービス
まるで、インターネット上ではまだ元気に生きているかのように振る舞う事ができるサービスである。
このサービスは静かに始まった。
サービスを始めたきっかけは、遠野の父親の正晴の死である。
正晴は町の名士であった。
幸一郎にとっても、自慢の父親であった。
正晴は誰よりも早く新しいものに目が無かった。中には色々と失敗もあった。
ただ、SNSは正晴にあっていた。
コンピューターエンジニアであった正晴はいち早く海外のSNSに目をつけて色々と試行錯誤しながら情報発信を行い、実に5万人のフォロワーを持つアカウントとなった。
正晴はSNSと連動して悩み相談のページを立ち上げて色々な人の話し相手、相談相手になった。また、それらの経験をノウハウや経験知としてSNSを通じて発信し続けた。
ある日、日課の散歩に出かけた正晴は不慮の事故に会う。
日頃から、「何が起こるかわからないのが人生なんだよ」と言うのが口癖だった正晴であったし、既に会社は定年退職していたので、幸一郎にとってそこまでのショックは無かった。
通夜を終え、幸一郎はスマートフォンで正晴のアカウントを覗いてみた。
正晴のアカウントには「何かありましたか?」「調子でも崩しましたか?心配です」と言ったコメントが多く流れていくことに気がついた。
「そうか、この人たち、親父が亡くなった事に気がついてないんだ」
しかし、幸一郎には正晴のアカウントのパスワードを知らないので、訃報を伝える事が出来ない。
幸一郎は正晴の遺品を見直した。正晴が持っていた小説などは処分していたがノートが1冊見つかった。中身を見てみると住所や電話番号などが記載されていたが、ノートに貼り付いている付箋にどうしても不明な文字列が一つだけあった。
試しに、幸一郎はそれを入力してみる。無事ログインできた。幸一郎はすぐにパスワードを自分がわかるものにして、正晴に届いているメッセージに返信しようとする。
「訃報を伝えるべきか、まだ存命であるように振る舞ってメッセージに返信していくか?」
幸一郎は悩んだ。何せSNS上の人物は誰も実際に会った事がない人しかいないからだ。
続く…。