つい先日、ある漫画家のアシスタントの不払い残業代請求の話題が出ており、それに対してギャグマンガ家のうすた京介さんが、「実力主義の世界のマンガ家に残業などない」的な発言をして見事プチ炎上中らしいです。
多くのネットの書き込みは「見損なった。残業代は出すべき」と言う意見ですが、僕はどちらかと言うとうすた京介さんの意見に”ある意味”賛成です。
僕も、ちょっと考えてみたんですけれど、これってミュージシャンに置き換えるとミュージシャンは才能と使って仕事をするから残業代なんて概念はないと言う風に捉えれるのかな?と思いました。
ただし、レコーディングに時間がかかるとミュージシャン自身の残業代は不要かもしれませんが、関連するミキサーやスタジオエンジニアと言う職業の人の時間はその分消費される訳で、一概に残業代が要・不要(出すべき・出さなくても良い)と切り分けられないと思います。
そこで、僕が数年前から考えているのが「知的生産性」と言う概念です。
簡単に一言で言うと、「時間単価で仕事をするか、成果主義で仕事をするかの違い」と言う感じでしょうか。
僕のような仕事(システムエンジニア)はBtoB(企業対企業)で仕事をする際に1つのシステムが大きくなりすぎる為、分業制で作業をします。
でも、できる人はさっさと終わっちゃうし、できない人は何時間かかってもなかなか進みません。これは人間の性格や才能なので均一化することはできません(逆に均一化できるレベルの作業はコンピュータで自動化できます)
簡単に言うと1日8時間の会社で、
できる人が5時間で終わって、残りの3時間を別の仕事に取り掛かる(残業0)のと、
できない人が12時間かかって終わらせて4時間分の残業代をもらうってのはちとおかしいんじゃない?
って事です。
ネットの意見の場合は、ここが論点に挙げられておらず、”後者の人はクビにすればいいだけだろ。なんで雇うの?”と論点が飛んでおります。
少なくともネットの人は“残業代は雇用契約にあるだろ”と言っているのですから、逆に雇用契約上、簡単にクビにすることはできません。
”できない奴は首にすれば”と言っている人は、ちょっと調子が悪くて頭が働かずに作業能力が落ちている状態が続いている時に、次の週会社に行ったら自分の机がなかった。なんて状態を想像できないのでしょう。(アメリカなど海外では当たり前みたいですけれど)
マンガ家の場合も基本的に週間の漫画を一人で書くのは現実的ではないので、アシスタントを雇って手伝ってもらったりして作業します(背景を描いたり、色を塗ったり)。アシスタントはその対価としてお金だけではなく、「プロの仕事」を盗む事ができます。今回の問題定義をした人はこのアシスタント業ですね。
才能のあるアシスタントは仕事を終えた後で、自分の時間で寝る間も惜しんで自分の作品を作り、どんどん独立して行きます。結果、独立して、自分の作品を描き成功する訳ですね。
逆に才能のないアシスタントはいつまでも指示待ち人間となり、結果徹夜などの作業を強いられる訳です。
ただし、背景を描くなどの作業は物理的な時間がかかる場合があります。
(例えは、雲ひとつない青空を描くのと、100階建ての高層ビルが立ち並ぶオフィス街を描くのではおそらくどんな人でも後者の方が絶対的な時間がかかってしまいます)
「明日までにオフィス街の背景描いてね」といきなり言われればそれは徹夜してでも描くのが仕事になるので、ここは適正な残業代を出すべきだと思います。
余談ですが、こち亀の作者秋本治さんは、アトリエびーだまと言うプロダクションを作り、見積もりを完璧に行い、残業0、休日出勤0を心がけて作業をしているそうです。ほとんど完全分業制で少数先鋭でしょうね。なので、アトリエびーだまには”できない人”はいないと思います。(ただし、これは特例で、「こち亀」と言う普遍的に続けられる話(ある程度の方程式・フォーマットが決まっている。例:サザエさん、クレヨンしんちゃん、アンパンマン)、長期連載のために特例で連載中に読者投票による打ち切りを気にしなくて良いと言う安心感があるからです)
僕の仕事の場合は、1日単位、1時間単位ではないので、ある程度の”見積もり”をたて、スケジュールを組みチームメンバで共有・合意してから、作業をします。その際の見積もりは基本的にはもちろん残業0です。
”基本的には”と書いたのは、「本来なら10日かかる仕事を5日でやってくれ。」と言う無茶なオーダーが来た場合ですね。その場合は倍のコストを見積もるか、残業・徹夜をして納期の5日で終わったら残りの5日を代休に充てるとかですね。
酷かもしれませんが、知的生産が苦手な人(知的生産性が低い人)は、下記のどちらかのパターンを選択する必要があると思います。
- 自分の才能を生かせる職業に転職し、知的生産性を高める
- 時間労働者と割り切って、時給で働く
僕はプログラムが好きなので、ある意味割り切りながら仕事をして(日本企業は成果主義の定義が難しい)、なるべく残業をせずに早く帰って自分のアンテナを巡らし、色々と吸収・発信しています。
うすた先生が言っている「嫌なら就職しなさい」と言うのは「残業代が欲しかったら時間労働者として働きなさい」と言う言い方が正確だと思います。
マンガ家やミュージシャンはどちらかと言うと個人事業主で働くので、成果主義の知的生産に向いていますね。
売れないバンドマンは成功するまで音楽では食っていけない(成果主義で成果が出せない)ので、それまでバイト(時間労働者)として働いて食いつなぐと言うエピソードだと理解してもらえるでしょうか?
去年あたりから、「働き方改革だ!」と言われているので、残業至上主義をさっさとやめて成果主義に変えれば良いと思うんですけれどね。なかなかそうもいかないんでしょうね。(あ、残業しなくてもちゃんと生活できる給与を約束すると言う前提があってですよ)
とはいえ、漫画家もミュージシャンもお笑い芸人も成功しないと給料はほとんどない状態です。さらに漫画やアニメは単価も安いと聞いていますので、作家(雇用主)としては絶対的に給料に回す予算が足りないのかもしれません。(漫画やアニメは、単行本やDVDなどの売上で回収して精一杯みたいです)
さらに、今はインターネットで違法コピーの時代。結果、回収したくても物が売れなかったりします。耳が痛い人もいるのではないでしょうか?
そこら辺も踏まえて、きちんと考えないといけない時代になっていると言う事なんでしょうね。
このエントリーは思ったことを書きましたが、本来、問題に対する論点(考えないといけないこと)を明確に分け、一つづつ議論していき整理する必要があるでしょうね。