ある一家が、高知の山奥にあるクラインガルテンもとやまに来た。ここは簡易滞在施設で本当の家としての利用目的ではない。現に、ここに住民票をおくことはできない。農業体験型のセカンドハウスである。
名前はイケダさんと言う。奥さんと子供を一緒に連れてきて居る。ここに農地を買って自分の農園を作るのだと言う。志は高く、イケダさんは雇用促進の為の色々なアイデアを”呟く”。
イケダさんはここに住んでいる。本来の目的の農業をやっている感じは一切なく、パソコンをカタカタ叩く音と、夜になると宴が始まり、なにやら太鼓みたいなのを叩いている。
周りに人がいないので今の所苦情はきていない。
アイデアは”呟いた”だけで、少しも実行しようとする気配を感じない。ただ、時折思いついたようにアイデアを”呟く”。
「まぁ、イケダさんも自分の家があるだろうしいつか出ていくだろう。今回はちょっと長いだけかな?長期休暇でもとったのだろう」管理人はそう思うことにした。
しかし、いつになってもイケダさんはガルテンから出ていく雰囲気はない。車でどこかに言ったかと思えば翌日には帰って来る。
「イケダさんの住民票が置いてある家はどこにあるのだろう?」
管理人も気になりだす。
そのうちにイケダさんの仲間が現れる。彼らはガルテンには住まずに、そして、地元の定職にもつかない。
なにをしているかと言うと現地にNPO(非営利団体)を立ち上げて国からもらったお金で生活して居る。NPOの目的は曖昧で経営は赤字。「田舎に若者の雇用を作る」目的で結成されて居るが、たまに別の土地から若者が訪れては宴会をして、また帰っていく。
ただ、飲みにきて、帰っていく。それだけだ。この場所に定着する気もないし、この土地で仕事をする気も全く無いようだ。
そうしているうちに、イケダさんは3年間もガルテンに居座る。滞在中に赤子を2人も産んだ。出生届をどこに出して居るのかは知らない。いつも新生児を抱えているイメージが固定されていく。
イケダさんはネットで色々なものを買って居るみたいで、その荷物もガルテン宛に届く。イケダさんが不在の場合は管理棟で保管するので管理人も大変である。
いつまでたっても、農園の開墾は進まないし、若者は増えずに飲んで帰るだけである。全く定着はしていない。雇用促進も進んでいない。
ちなみに、イケダさん一家が住むガルテン、契約上は1年契約で更新は2回が限度とされている。つまり、3年が限度な訳である。
3年が過ぎ、4年目。イケダさん一家はと言うと、
「実はまだ、ガルテンに居るのです」