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イケダ家のスプリング、ハズ、カム。ー1ー

3月

春。

春は別れと出会いの季節。そして新しい一歩を踏み出す季節。3月に泣きじゃくって別れた友が4月には新しい友達に変わっていく。そんな季節。

イケダ家にも春は来た。そりゃそうだ。誰にも春は来る。立春になれば”春”だ。

ただ、イケダ家には、出会いも別れもない。娘が3人いる大所帯だけれども、出会いも別れも、ない。

イケダ家の大黒柱であるハヤトは今流行の在宅ワーカーである。コンピューター1台とインターネットで生計を立てている。と言っても、デイトレーダーや投資家ではない。ブログとYoutubeが稼ぎ柱である。
平成の終わりから令和にかけてそう言う稼ぎ方も増えてきたと言う。ハヤトは先見の明があったのだろう。

おかげで、特に生活に困らず、適度に外食(外食はハヤトの好物であるうどんが多い)も出来る。資産があるので、急に収入が途絶えても困ることはない。

一度はセミリタイアをしようと思ったハヤトだったが、趣味で初めたYoutubeが好評で、セミリタイヤをやめて今まで以上に力を入れることにした。仕事ではなくて、これもハヤトにとっては趣味の延長なのだろう。

さて、妻のミキは掃除は苦手だが、料理が上手だ。特にビリヤニを得意料理としており、料理店を開くこともできるレベル。昔はカフェの経営を行なっていたが、それも後任に任せて今は家に戻っている。
掃除に関しては問題はない。お掃除ロボットが部屋を掃除してくれるからだ。時代は進んでいる。便利な物を使わない手はないのだ。

話を戻して、イケダ家には娘が3人いる。だが、学校には行ってない。不登校と言う訳ではない。ハヤトは一流大学の政治経済部を卒業しており、在宅をしているので、「学校に通わせて他の子に勉強レベルを合わせるより、自分で教えて飛び級でハーバード大学に行ってもらう方がイージー」と言う目的で自分で勉強を教えているからだ。
家庭教師など必要ない。ハヤトが教師なのである。

なので、イケダ家には出会いと別れは無い。
そもそも、仕事柄、直接人と会う必要が無いビジネスモデルなので、用事が無い限り人と会うことがないのだ。

出会いも別れもない。あるとしたら、ネットでつながった人たちとのつながりだけであろうか。しかし、ネットの関係は希薄である。
“来るものは拒まず、去るものは追わず”
これがハヤトの信念であるので、人に固着すると言う”概念”がないのだ。

ハヤトは成人した男性だからそれで良いだろう。ミキも成人している。たまにカフェの経営に口出しをする位であろう。

でも、子供たちはどうであろうか?
彼女らは外の世界を知らない。3人の中の狭い狭いコミュニティー。せめてもの救いは一人っ子ではないと言う事であろうか。
勉強はできるけれど、外界をまだよく知らない子供たち。

1

4月

ある、春の日。イケダ家にお客がきた。ネットで事前に来客の情報が入っていないので、誰か?と思いドアを開けると、そこにはハヤトには見慣れた女性が立っていた。

そう、ハヤトの姉サユリである。

サユリはドアをこじ開け家の中に入ってくる。さすがに実姉であるので警察を呼ぶわけにも行かない。

サユリは部屋の中を見渡して言った。「きったない部屋だねぇ、掃除だ!掃除!」
ハヤトは「汚くはないよ。ルンバを使って部屋は自動で掃除しているから」と口を返す。

「馬鹿じゃないの?あんたの家はね、床に物を置きすぎているんだよ。ロボットだって物があればそれをどかせないじゃないか!それはね、掃除って言わないんだよ。はい、ハヤト、いらないものをまとめて!」サユリはまくりたてる。

「う、それは…」
「ミキさんはなんて言ってるの?こんな部屋だと子供の教育にもよくないよ!」
「ミキは掃除があまり得意じゃ、ないから」
「なら、ハヤト、あなたが掃除しなさいよ。家事は分担するもの!あんたは何やってるの!」

「あとね、あんた娘たちを学校に行かせてないらしいじゃないの!学校はね、勉強するだけじゃないんだよ!同じ歳や年上、年下との会話やコミュニケーションを通じて人格形成する大事な場所なんだよ。ハヤト、”国民の三大義務”言ってみな!」

「勤労の義務と、納税の義務、そして…」
「わかるよね、教育の義務だよ!あんたね、自分で育ててハーバードなんかに行かせられるわけないじゃないのよ。あんた英語できるの?」

「しかし、教育は僕が…」
「教育の義務ってのはね、『子供が学校に行く義務』じゃなくて、親が子供に『教育を受けさせる義務』なんだよ。あんたこんなことやっていると育児放棄してるって事になっちゃうよ!」
「う、う…」
「わかったらすぐに学校に行って入学届けもらっておいで!ミキさんはカフェの経営しているんでしょ?なら私がしばらく面倒みてあげるから!」

「え?姉さん帰らないの!?」ハヤトは驚きを隠せない。

「母さんから『ハヤトはどうでも良いけれど孫たちが不憫でたまらない』って私に泣きついてきたんだよ。私は子供を高校まで入れてるからね。もう親離れも終わってるの。だから子供がちゃんと学校に行くまでここにいるよ!」


さて、イケダ家に春は訪れるのであろうか?

イケダ家のスプリング、ハズ、カム。

(続く)

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